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2004年9月16日付小樽温泉訴訟高裁判決について

原告の一人として
私個人の感想文

有道 出人 著

(転送歓迎)

 皆さまおはようございます。有道 出人です。いつもお世話になっております。

 先日報道されたことですが、小樽温泉人種差別訴訟の判決が9月16日に下されました。結果は地裁判決とほほ同様で、被告温泉は敗訴(各原告に100万円損害賠償命令、但し私は小樽市の一審の裁判費用を負担しなければいけない)。小樽市は圏内で数年間差別が起こっていることを知っていたものの、条約上では効果がある差別撤廃措置を採らず責任を負わぬ。私の控訴棄却。

 ◎ 高裁判決文http://www.debito.org/kousaihanketsu.html

 この感想文は判決の議論の評価であり、なぜ最高裁に上告するのかを説明させていただきます。

 (注意、これは専門家ではない私個人の感想であり、判決文は私にとって理解しにくく、誤解の可能性があることを先にお断りいたします。)

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●被告温泉「湯の花」の敗訴理由

 判決文が読みにくい原因の一つは、地裁の判決文に言及して、異論または付け加えることがあり、文書二つを参考にしないといけない場合があります。もし比較をしたければ、どうぞ一審の判決文はこちらです。
 ◎ 地裁判決文http://www.debito.org/otarulawsuithanketsu.html

 要は、高裁文で何も訂正やコメントがなければ、そのまま地裁と同意です。
 (注:高裁の付け加えは高裁文10ページの9項から始まるので飛ばして下さい。)

 同意したのは、地裁の議論(引用でないが):「外見のみで人を断ることは人種差別だ。そして「不合理的差別」であり、つまり『社会が許容しうる限度を超えている』(和訳:やりすぎ)差別なので、違法性行為に当たる。」

 付け加え文はありますが、「この行為は公衆浴場にとって不適当である」との判断くらいなので、一審判決の論点、つまり「人種差別行為は何だ、差別のやりすぎの境界線はどこだ」、「不合理的差別」と「人種差別」は法的に対等な扱いになるか(以前私が議論した通り、人種差別は合理的差別になり得ない)、「人種差別=違法性行為」ではないこと、は一切解決されていません。よって地裁と同様に高裁は判決の判例に限度を与えようとしていると思います。

 しかし、グッドニュースを言えば、高裁は地裁の命じた損害賠償金を減らさなかったことです。もし減額されたら、これから敗訴する差別主義者は「控訴すると儲かる」と思ってしまう。

 これで「湯の花」を相手取る訴訟は終わりです。三審までしても棄却されます。最高裁は日本国憲法に関連するケースのみを聞きます。

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●被告小樽市の勝訴理由

 地裁の論理とほぼ同様でした。(まとめに):「人種差別撤廃条約は日本国の立法と同様な法的扱いとなり、国と同様に地方自治体小樽市は守らなければいけない。しかし、これは政治的義務に留まり、条例制定までするのは一義的な義務にならないので、法制化しないことは規範性のある自治体の不作為にならない。」

 ちょっと噛み砕いて説明いたします。

 原告として私たちの主張は、「差別は永年あったと知っていたのに、小樽市は効果があった、つまり差別撤廃となった禁止法、措置を採らなかった。よってこれは人種差別撤廃条約違反なので責任を取ってほしい。」

 一審と二審の裁判所は「条約上では、締約国は『すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる』と言っても抽象的にしか書いていないので、具体的な実施の仕方は分からないので、拘束力は違う。立法というよりもゴールもしくはガイドラインに過ぎない。つまり、国が何かのアクションを起せば、裁判所は判断できる。例えば、もし国は人種差別について変な法律を制定すれば、「これは条約上違反である、またはそうではない」と判断できる。(これは法的用語では『規範性』がある)。

 しかし、国はアクションを起こさなければ(例えば「差別撤廃条例を作らない」こと)、それ実態は規範性がない。つまり国の「ノンアクション」は違法性行為であるのは「責任を取る」ことについて判断できない。

 (したがって、市は何かをしたら(例:ビラを配る、会議を開く等)充分になりうる。別に差別撤廃効果があっても関係ない。『一義的ではない』は『絶対にやりなさいじゃない』という意味になって、法制化以外のことをやれればパス、というわけです。この曲解は条約違反ですが。)

 前例として、高裁は最高裁の判決を出しました(12ページ6項)。昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁。このケースはハンディキャップの方は日常バリアをなくする「バリアフリー」条例を制定せぬ地方自治体を相手取りました。敗訴でした。理由は(まとめに):「個人は国の『ノンアクション』、特に政治的な問題のノンアクションを相手取って損害賠償を求めることが不可能。これは国の『裁量』に当たる。」

 ならば、なぜ『国』や『政府』が存在するのですか。税金をもらっても、社会問題の解決をしないことは『裁量』に当たりますか。国民及び住民の人権救済を効果的に行政しなくいいと裁判所も判断していいのでしょうか。

 日本政府こそ、社会問題があれば「どうぞ裁判所へ訴えて下さい」と言っています。

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 総論 4.(中略)更に、国民の権利が侵害された場合には、裁判による救
済を受け得るが(憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利
を奪はれない」と定めている。)、憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するた
め、裁判官に「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律に
のみ拘束される」(同第76条第3項)との立場を保障している。


(日本政府が発行した人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告1999年6月発行より)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/99/1.html
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 私たちはそうしました。が、「国を相手取るなら敗訴だ」と言っています。

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 結局、高裁判決の法的根本は『三分権』です。つまり、「行政官」(公務員)、立法府(政治家)、と司法官(裁判所)。人種差別撤廃法制化は立法府のお仕事です。「政治的義務」です。司法官は法律の作成のお仕事ではありません。「こう法制化をしなさい」と命令できないのだ、と主張しています。「政治家がしなければ、国の責任ではないよ」とこの判決で宣言しています。

 しかし、司法官のお仕事は「立法を実施すること」です。

 95年に批准した人種差別撤廃条約は立法と同じ扱いです。

 日本政府はそう認めました。日本政府が発行した人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告(仮訳)1999年 6月発行より

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 総論  5. 我が国が締結した条約は、条約及び国際法規の遵守義務を規定
する憲法第98条第2項の趣旨から、国内法としての効力を持つ。なお、条約の
規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を
勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/99/1.html
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 また2年後、日本政府は再び確認しました。人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する 最終見解に対する日本政府の意見の提出より  2001年10月発行 

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  4(2)国内法における本条約及びその規定の地位については、我が国の憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び確立した国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定しており、我が国が締結し、公布された条約等は国内法としての効力を持つ。我が国の憲法には、我が国が締結した条約と法律との関係についての明文の規定はないが、一般的に条約が法律に優位するものと考えられている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/iken.html
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 (99年〜01年、国連と日本政府のやり取り文書は(日本語)
 ◎ http://www.debito.org/japanvsunj.html

 もし『一般的に条約が法律に優位するもの』ならば、なぜ小樽温泉判決は本条約を法律として実施しない方法を探り、「効果的な措置がなくても国は責任がない」と論じられますか。規範性があるはずです。三分権は論外です。

 もう一つの件が高裁判決で取り上げられています。「人種差別撤廃条約は個人対個人の行為まで及ぼさない」ということにも言及した。(条約はこうした理由は、隣の人が「あんた、ガイジン、バカ!」と言ったら、条約上の提訴になるような乱用を防止。相手は政府、グループ、オフィシャルや法的な様子ではないといけない。例えば、温泉を営業している会社。政府。)しかし、高裁判決は、私の誤解がなければ、先述の「昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁」の前例の下で、個人は国をこうやって相手取らない、と本条約が示したと述べている。これは完全に曲解です。

 要は、「ノンアクションは条約上で規範性のある不作為にならぬ」という裁判での論理は日本のみです。他の社会では通りません。本条約の締約国の統べては、批准してから「人種差別撤廃法、公民権法、「ヘイト・スピーチ」(悪意ある発言)撤廃法などを制定しました。批准して9年間が経過しても日本のみが不作為しております。この判決らで日本はこのままでいいと認めて、非常に無責任だと感じざるをえません。

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 国の『裁量』の論点に戻りますが、裁判所からの責務について言い渡しがなくても、結局政府は責任を取らなければいけない『アクション』を起こしますか。政府は自分の『裁量』に限度を与えて人種差別撤廃法制化をしますか。

 しないと思います。なぜなら、また日本政府と国連のやり取り文書をご覧下さい:

人種差別の撤廃に関する委員会 第58会期
人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解)CERD/C/58/CRP.

CERD/C/58/Misc.17/Rev.3 2001年3月20日発行  
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/saishu.html

 (国連の見解) 9.委員会は、憲法第98条が、締約国によって批准された条
約が国内法の一部であると定めているにもかかわらず、あらゆる形態の人種差
別の撤廃に関する国際条約の規定が、国の裁判所においてほとんど言及されて
いないことにつき、懸念をもって留意する。条約の規定の直接適用は、その規
定の目的、意味及び文言を考慮して、個別のケース毎に判断されるとの締約国
からの情報に照らし、委員会は、国内法における本条約及びその規定の地位に
つき、締約国から明確な情報を求める。

10.委員会は、本条約に関連する締約国の法律の規定が、憲法第14条のみであ
ることを懸念する。本条約が自動執行力を持っていないという事実を考慮すれ
ば、委員会は、特に本条約第4条及び第5条に適合するような、人種差別を非合
法化する特定の法律を制定することが必要であると信じる。

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人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する 最終見解に対する日本政
府の意見の提出より  2001年10月発行
 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/iken.html

 4.(1)裁判所における個別具体的事件に関する条約の規
定の適用の在り方については、政府としてコメントすべき立場にはないが、一
般論として考えた場合に、(a)裁判所が判決においていかなる法規を適用す
るかについては、当事者が主張した事実や提出した証拠に基づいて裁判所が認
定する事実を前提とするという制約があること、(b)条約の規定の趣旨がす
でに国内法の規定に反映されていることなどから、条約の規定そのものを適用
しなくても判決の結論に影響しない場合も少なくないこと、などの点にかんが
みれば、裁判例の中に本条約の規定に言及している事案が少ないからといっ
て、直ちに裁判所が本条約の適用に消極的であるとの結論にはならないと考え
られる。

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(私からコメント:これは2001年10月に書かれたのに、小樽温泉問題は1999年から全国的に知られて2001年2月に提訴されました。なぜ「事案が少ない」と主張できるのか。)

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 (また日本の返事)
 5.(1)(前略)第2条1では、すべての適当な方法によりと規定されているこ
とから明らかなように、立法措置は、状況により必要とされ、かつ立法するこ
とが適当と締約国が判断した場合に講じることが求められていると解される。
我が国の現状が、既存の法制度では差別行為を効果的に抑制することができ
ず、かつ、立法以外の措置によってもそれを行うことができないほど明白な人
種差別行為が行われている状況にあるとは認識しておらず、人種差別禁止法等
の立法措置が必要であるとは考えていない。

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(国連の見解) 12. 人種差別の禁止全般について、委員会は、人種差別それ
のみでは刑法上明示的かつ十分に処罰されないことを更に懸念する。委員会
は、締約国に対し、人種差別の処罰化と、権限のある国の裁判所及び他の国家
機関による、人種差別的行為からの効果的な保護と救済へのアクセスを確保す
べく、本条約の規定を国内法秩序において完全に実施することを考慮するよう
勧告する。

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 (日本の返答) 6.(前略)第4条の定める概念は、様々な場面における様々
な態様の行為を含む非常に広いものが含まれる可能性があり、それらのすべて
につき現行法制を越える刑罰法規をもって規制することは、その制約の必要
性、合理性が厳しく要求される表現の自由や、処罰範囲の具体性、明確性が要
請される罪刑法定主義といった憲法の規定する保障と抵触する恐れがあると考
えたことから、我が国としては、第4条(a)及び(b)について留保を付すること
としたものである。

 また、右留保を撤回し、人種差別思想の流布等に対し、正当な言論までも
不当に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければ
ならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の扇動が行われて
いる状況にあるとは考えていない。

8. (1)(中略)、同条は、人種差別の助長等の意図を有する行為を対象と
して締約国に一定の措置を講ずる義務を課しており、そのような意図を有して
いない行為は、同条の対象とはならないと考えている。

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(コメント:つまり、差別主義者は「差別する意図がないが、入店お断り」と
弁解して可)


 (上記の内容そして『どうやって日本政府は本条約は日本社会に当てはまらないのかと論議しているのか』、は参考資料にとして9月16日の記者会見に出席した記者に配布しました。どうぞご覧下さい。)
http://www.debito.org/kishakaiken091604.html
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 よって、私はこういう無責任な判決を放置できないので、最高裁へ上告します。そして、来年春、全国的に国を相手取る訴訟を提訴します。差別に悩んだことがある原告を募集中。11月、大阪で戦略会議を開きます。弁護団の案内は
http://www.debito.org/kunibengodan.html

 私たちは頑張ります。これからも宜しくお願い申し上げます。有道 出人

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September 18, 2004
ENDS

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